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認知症の人の運転の特徴とは?こんな運転は認知症の可能性あり!

認知症の人の運転の特徴とは?こんな運転は認知症の可能性あり!

歳を重ねても「自分はまだ運転できる」と感じる方は少なくありません。しかし、脳の働きがゆっくり変化すると、本人の自覚がないまま運転のクセが危険に変わることがあります。本記事では、現場で実際に見られる具体的な運転の事例を取り上げながら、「なぜそうなるのか」を脳機能の観点から丁寧に解説します。単なる“あるある”の羅列ではなく、注意力・判断力・視空間認知・遂行機能(段取り)の低下がどのように事故リスクに結び付くのかを、表や症状タイプ別の特徴も交えてまとめました。ご家族や介護職、地域の見守りに携わる方の「気づき」の手がかりとしてお役立てください。

高齢ドライバー全員が危険という話ではありませんが、認知症の場合は特有のメカニズムがあり、早い段階での評価と支援が鍵になります。日本では75歳以上に認知機能検査が求められ、認知症と判明した場合は免許の取り消し等の扱いになります。制度の背景も併せて理解しておきましょう。

認知症と運転の関係――安全が崩れ始めるメカニズム

安全運転には、見る(視覚・視空間認知)、注意を配る(選択的・分配的注意)、状況を予測・判断する(遂行機能)、記憶に基づくルール運用(記憶・言語理解)、そして確実に操作する(運動機能)が、同時かつ連続的に働くことが必要です。認知症ではこれらのどこか、あるいは複数が低下し、“普通の老化”では説明しにくい運転エラーにつながります。医療現場の知見では、特に注意機能と視空間認知、遂行機能の低下が事故リスクと強く関連することが示されています。

現場で本当に起きている運転の実例と、その裏で起きる脳の変化

黄信号でブレーキと加速を小刻みに繰り返し、結局は赤信号を猛スピードで通過する

一見「迷い」のように見えますが、実は注意の切り替えと抑制(ブレーキ)・実行(加速)の選択を担う遂行機能が弱り、判断の一貫性が失われています。信号色の変化という時間的プレッシャーがかかると、操作が反復的・衝動的になりやすく、結果として信号無視に至ることがあります。前頭葉機能の低下、あるいは前頭側頭型認知症ではルール抑制が特に弱く出ることが知られます。

右折タイミングを極端に誤り、対向車の速度を見誤って割り込む

距離感・スピード感の見積もりは視空間認知に依存します。この領域が弱ると、対向車が「遠く・遅く」見え、危険な右折に踏み切ってしまいます。夕暮れ~夜間はコントラストが下がり、レビー小体型認知症では錯視・幻視も加わるため、誤認が増えます。

車線の中央を保てず蛇行し、車間距離が伸び縮みする

周囲に注意を配りながら自車位置を微調整するには、分配的注意と視空間認知の協調が欠かせません。これが低下すると、車線維持が不安定になり、車間距離も一定に保てません。実車・シミュレーター評価でも、注意と視空間認知の評価が運転安全性の判断に重視されます。

ウインカーを出し忘れ、曲がる直前に急ハンドル

「意思表示」という社会的ルールの運用には、記憶・概念理解・注意切替が必要です。軽度認知障害ドライバーでは、単語記憶の弱さと“ウインカー不使用”に相関が見られたとの報告があります。単なる物忘れではなく、ルール運用そのものが脆くなるサインです。

駐車枠に真っすぐ入れず何度も切り返す、または斜めに停めてしまう

枠の線と自車の位置関係を立体的に把握してハンドルを逆算する作業は、視空間認知の典型課題です。この機能が弱ると「見ているのに合わせられない」状態になり、切り返しが増えます。

カーナビの迂回指示に対応できず、道に迷って戻れない

想定外の状況で目標を再設定するのは遂行機能の役割です。アルツハイマー型では道順の記憶低下も重なり、経路変更で立ち往生しやすくなります。「予定の経路を通れないと次にとるべき行動が決められない」という臨床観察も報告されています。

インターチェンジや分岐で逆走・進路誤りを起こす

標識の読み取り、進路選択、短時間の抑制と実行の切替が同時に求められる場面です。高齢ドライバーの逆走は統計的に高齢者の比率が高いことが示され、認知・視機能低下が背景にあります。認知症ではさらにリスクが上がります。

認知症の運転でよくある具体的な挙動と「どの機能が落ちているか」の対応表

下表は、よく見られる運転の挙動を、低下しやすい認知領域や目立ちやすい認知症タイプと対比した整理です。個人差は大きいため、あくまで傾向として捉えてください(注意機能・視空間認知・遂行機能が事故リスクと関係するという臨床知見に基づく)。

運転の挙動低下が疑われる機能目立ちやすいタイプなぜ起きるか
黄信号で操作が揺れ、赤でも進入遂行機能(抑制・切替)前頭側頭型、前頭葉機能低下ルール抑制の弱さと判断の一貫性低下
右折で対向車に割り込む視空間認知・速度距離見積りレビー小体型、後頭葉機能低下距離・速度の誤認、錯視・幻視の影響
蛇行・車間不安定分配的注意・視空間認知各型で起こりうる同時課題処理の弱さで位置調整が破綻
ウインカー不使用記憶・概念理解・注意切替軽度認知障害~アルツハイマー型社会的ルール運用の脆弱化
駐車が極端に苦手になる視空間認知各型(特に後頭葉機能低下)自車と枠線の相対位置の把握が困難
カーナビに対応できない遂行機能・ワーキングメモリアルツハイマー型目標再設定と段取り組み替えが困難
分岐・料金所で逆走注意切替・視覚処理・抑制各型、重度化で増加標識理解・進路選択の同時処理破綻

認知症タイプ別に出やすい運転のクセ

アルツハイマー型では、道順の記憶や段取りが弱くなり、迂回路の選択や初見の交差点での判断が遅れます。レビー小体型では、錯視や幻視、注意の波、パーキンソニズム(動作の遅さ)が重なり、夕暮れ以降の誤認・操作遅延が増えます。前頭側頭型では脱抑制や常同行動が前面に出て、信号・標識などのルール軽視に見える走り方が問題になります。血管性では場所ごとのできる・できないの「まだら」が強く、左折時の歩行者確認の抜けなど半側空間無視に関連するミスが特徴になります。

進行度と運転能力の目安

軽度認知障害(MCI)段階から運転上の“違和感”は始まることがありますが、定型のペーパーテストだけでは拾いにくい側面もあります。医療・神経心理検査、シミュレーター、同乗観察、実車評価などを組み合わせて総合的に判断するのが国際的な標準です。日本では75歳以上の免許更新時に認知機能検査が義務づけられ、認知症と判明すれば免許の取り消し等となります。実際の可否は医師の診断や実車評価などを踏まえて決まります。

「加齢による運転の衰え」と「認知症による危険な運転」はどこが違うか

加齢だけでも視力・コントラスト感度の低下や反応遅延は起こりますが、認知症では「状況に応じたルール運用の破綻」「意思決定の一貫性の崩れ」「道順再構成の困難」「見間違い(錯視)や幻視」といった質的な変化が加わります。特に、普段は問題なくても負荷が高い場面(夕暮れ、複雑交差点、右折、合流、分岐)でエラーが連鎖しやすいことが、臨床や調査研究で指摘されています。

家族が気づいたらどうするか――対立を避け、評価へつなぐ

まずは事実ベースで最近の出来事(ヒヤリ・道迷い・標識見落とし)を穏やかに共有し、夜間・複雑経路・高速合流など高負荷の場面を避ける提案から始めます。そのうえで、かかりつけ医に相談し、必要に応じて専門医の評価や神経心理検査、実車(または同乗)評価につなげます。日本の制度では、75歳以上の更新時に認知機能検査が組み込まれており、認知症と判明した場合は免許の取り消し等となります。運転の代替手段(家族送迎、地域交通、タクシー券制度など)を一緒に設計しておくと、受け入れが進みやすくなります。

制度の要点(知っておくと話が進みやすい)

運転免許の更新時に75歳以上は認知機能検査等が必要で、認知症と判明した場合は道路交通法に基づき免許の取り消し等の措置がとられます。医師は診断書作成の手引きに沿って判断し、必要に応じて専門医療機関や追加評価が勧奨されます。制度の詳細は警察庁・日本医師会の公表資料を確認してください。

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